映画「シェーン」保護期間事件④

完結編です。最後は、地裁判決に対する論評および今後の展開の予想です。もっと早くアップする予定だったのですが、誤って原稿を消去してしまい、書き直すのに時間がかかってしまいました。

まず、地裁判決の結論は妥当と考えます。経過規定に関する原告の主張は、確かに社会一般人にとって不可解なものです。条文を読んだだけで原告の主張する結論に到達できる人はいないでしょうから、文言解釈の点からは原告の主張は退けられるべきという点に異論がある方は少ないでしょう。また、前回説明したように「目的解釈」の観点からは文言解釈と異なる解釈がなされる余地はあるのですが、前回説明したように、本事例の場合は目的解釈の点からも原告の主張通りに解釈することは困難と言わざるをえません。時間ないし時刻で判断するのではなく「日」で判断すべきとする裁判所の論理は文言解釈、目的解釈いずれの点からも納得しうるものと考えるべきでしょう。


もっとも、原告が主張した事実関係に対する裁判所の考えについては、個人的に若干の異論があります。具体的には、原告が主張した事実関係のうち(3)に対する裁判所の考えについて、異論があります。

まず、裁判所は他の法律での同一文言からなる経過規定の解釈を根拠に原告の主張を否定しているのですが、たとえ文言が一緒であったとしても、法律ごと、極端な場合には条文ごとに異なる解釈がなされることは珍しくありません。例えば、民法94条2項における「善意」とは文字通り善意(「知らない」ということ)を意味するのに対し、民法466条2項の「善意」は、善意かつ無重過失(「知らず、かつ知らないことにつき重い過失が認められない」ということ)を意味するとされています。ですから、経過規定の解釈につきすべての法律で統一する必然性はなく、他の法律の経過規定の解釈が○○だから改正著作権法の経過規定の解釈も○○だ、という論理関係は成立しないのではないでしょうか。

また、本事例では過去の改正著作権法における経過規定の、いわゆる「確定した解釈(by原告)」と矛盾する結論となっています。そして、地裁判決の論理に従えば過去の改正著作権法における経過規定の解釈がそもそも誤っているとの結論を導くことが論理的に可能であり、現に判決文でも原告の主張(3)に対する裁判所の考えを述べた部分でその旨が明示されています。
本事案では過去の改正法における経過規定の解釈について争われたわけではありませんので、裁判所の判断が法的な意味を持つわけではありません。しかしながら、このような判断が示されたことを受けて、裁判所の判断によれば著作権が延長されず消滅していたのに、それまでの「確定した解釈」に従ったために余分な著作権料を支払ったこととなる者から、不当利得返還訴訟が多数提起されて混乱が生じる可能性があります。もちろん、このような訴訟が提起されても別にかまわないといえばその通りですが、一旦ルールとして事実上確立したものをひっくり返すような、寝た子を起こす真似をするのはいかがなものか、という気がします。

上述した通り、同じ文言であっても異なる解釈をすることは許されるのですから、原告の主張(3)に対しては、「過去の改正著作権法の経過規定につきいかなる解釈がなされようとも、平成15年改正著作権法の経過規定の解釈につきこれと同義に解する必然性はない」などとして一刀両断してしまえばよいのでは?などと考えます。

<おまけ1>
法解釈論ではなく立法論の話なのですが、著作権の存続期間を後付けで延長する法改正ってなんとかならないですかね?確かに平成15年著作権法改正は諸外国の制度との調和を目的としており、かつ諸外国は後付けで存続期間を延長しているのですから形式論的には問題ないのですが、実質論的には疑問を呈したくなってしまいます。
知的財産法としては著作権法の他に特許法が有名なのですが、特許権の存続期間について法改正がなされた場合には、施行日以降に成立した特許についてのみ適用される旨が経過規定に記載されます。特許法のやり方の方が公平の理念にも沿うと思うのですが、なぜ著作権法はこのようなやり方を採用しないのでしょうか。管理人が考える限り合理的な理由は見つけられず、黒鼠帝国の陰謀なのでは?と考えたくもなってしまいます。

<おまけ2>
知財マニア」を始めてから、まだたった2テーマ、日数にして7日分しか書いていないわけですが、すでに結構な数の方々に本ブログを拝見して頂いております。もちろん有名なブログと比べれば微々たる人数ではありますが、管理人としては大変ありがたく思っています。正直これほど見ていただけるとは開始当初考えておりませんでした。ありがとうございますとお礼申し上げるとともに、多数の方の目にさらされるプレッシャーを感じつつ、今後も精進していきたいと考えております。今後もお付き合いのほどよろしくおねがいします。